スタニスラフ・ブーニンリサイタル③

大阪のシンフォニーホールでの
リサイタル最終日のチケットを手にいれたねずみ。

聞けば、ブーニンは一型糖尿病が悪化し、
左足の切断を迫られましたが、
ピアノのペダルが踏めなくなるから、と拒否し、
なんとか切断せずに治療してくれる医師を探し、
手術で治療したとのこと。
そのため、左足は右足より短くなってしまったとのことでした。
身体の具合も悪く、辛い日々を長く送ったようです。

大阪まで新幹線で行き、
家人へのお土産や、デパートなどに寄り、
シンフォニーホールに到着しました。
いよいよブーニンの登場です。

杖をつきながら、ゆっくりゆっくり出てきたその人。
まさしく、ずっと憧れていたスタニスラフ・ブーニンでした。
ゆっくりと入念に手を拭き、水を飲み、鍵盤に手を置き・・
最初の一音。

その音のなんと豊かなことだったでしょう。

しかしながら、長い病はミスタッチや弾き飛ばしを
防ぐことは出来ませんでした。
最初のうちは、調子も上がらず、
ショパンの演奏は・・そう、割と散々な感じがしました。
観客も戸惑っていたように思います。

しかし、後半、シューマンの演奏になってくると、
演奏に磨きがかかり、それはまさに現役の頃と同じ演奏。
森、湖、風、豊かな自然の風景が目に浮かびます。
アンコールのショパンのマズルカを弾き終わったとき、
会場は割れるような拍手と
スタンディングオベーションに包まれました。

ブーニンは深くお辞儀をして、
少し照れて手をおどけたように上げました。
演奏に納得のいかない部分もあったのかも知れません。

でも、十分でした。

時々、完ぺきな技術の他のピアニストの演奏も聴きますが、
かゆいところに手が届かないような、
そんな気持ちを抱くことがあります。
ブーニンの演奏には、全くそれはなく
豊かな深い演奏で、長く真摯にピアノに向き合ってきた人生を
感じられる演奏でした。
私が長く聴きこんでいたせいもあったと思いますが、
それは、まさしくブーニンの演奏でした。

共に同じ時代を生きていく喜び。
ブーニンのリハビリは、まだ始まったばかり。
今、この時、彼の演奏は、紛れもなく今、生きている演奏。
それが聴けて、とても幸せに思ったねずみなのでした。